電気工事士は、建物に電気を安全に通すための工事と保守を担う国家資格の専門職である。一般住宅のコンセント増設から、オフィスビルの高圧受電設備、工場の動力配線、太陽光発電システムの設置まで、仕事のスケールは実に幅広い。
資格には大きく分けて第二種と第一種がある。第二種電気工事士は一般住宅や小規模店舗など600V以下の低圧設備を扱う。受験資格は一切不要で、学歴も年齢も問われない。筆記試験(四肢択一50問)と技能試験(公表13問から1問を40分で施工)の2段階で、筆記の合格率はおおむね60%前後、技能は70%台で推移している。
第一種電気工事士になると、最大電力500kW未満のビルや工場、変電設備まで手がけられる。筆記試験の合格率は40%台に下がり、技能試験も60分と時間が延びる。試験に合格しても、免状を受け取るには3年以上の実務経験が必要になる点が第二種との大きな違いだ。多くの人はまず第二種を取得し、現場経験を積んでから第一種にステップアップする。
さらに、電気設備の保安監督を担う電気主任技術者(電験)の道もある。第三種から第一種までの区分があり、発電所や変電所、大規模工場の電気設備を管理する。電験三種の合格率は例年10%前後と狭き門だが、取得すれば就職先は非常に多く、安定したキャリアを築ける。
資格別・年齢別の収入比較
気になる収入を見ていこう。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、電気工事士の平均年収は約547万円とされている。これは日本の給与所得者の平均年収460万円を上回る水準だ。内訳は平均月収が約36.8万円、年間賞与が約106.5万円である。
ただし、この数字は雇用形態や資格の種類によって大きく変動する。以下の表に整理した。
| 雇用形態・資格 | 年収目安 | 月収目安 | 対象となる主な現場 | メリット | 注意点 |
|---|
| 第二種電気工事士(正社員) | 400万~500万円 | 25万~33万円 | 一般住宅、小規模店舗 | 未経験から最短で就職可能 | 作業範囲が低圧に限られる |
| 第一種電気工事士(正社員) | 500万~650万円 | 33万~42万円 | ビル、工場、商業施設 | 高圧工事の単価が高い | 免状交付に実務3年必要 |
| 電気主任技術者(電験三種) | 450万~700万円 | 30万~45万円 | 発電所、変電所、大規模施設 | 業務独占資格で安定性が高い | 試験難易度が高い |
| 一人親方(独立) | 500万~1,000万円 | 日当2万~4.5万円 | 案件により多様 | 収入上限が高い、自由度大 | 営業力と経営管理が必要 |
| 派遣社員 | 350万~500万円 | 時給1,500~2,200円 | 現場により変動 | 柔軟な働き方が可能 | 福利厚生が限定的 |
| 地域による差も見逃せない。東京や神奈川、大阪などの都市部では日当が28,000円から40,000円程度と高めだ。一方、政令市以外の地方都市では20,000円から28,000円が相場となる。同じ作業でも、都市部と地方では1日あたり数千円の差が生じるのが実情である。 | | | | | |
| 年齢別の推移を見ると、20代では平均年収350万~420万円程度からスタートし、30代で450万~550万円、40代以降は600万円を超えるケースも出てくる。資格を重ね、高圧工事やキュービクル(高圧受電設備)関連のスキルを身につけるほど、収入は右肩上がりになる傾向がある。 | | | | | |
なぜいま電気工事士なのか
電気工事士の需要は、構造的な追い風を受けている。太陽光発電や蓄電池の普及、電気自動車(EV)の充電設備の整備、老朽化したビルや工場の設備更新——これらはすべて電気工事士の手を必要とする。業界全体で人手不足が慢性化しており、求人案件は右肩上がりだ。ある愛知県豊橋市の工事会社では、人員不足で依頼を断らざるを得ない状況が続いているという。
さらに、この仕事はAIに代替されにくい。現場ごとに建物の構造も配線の状態も異なり、劣化状況を見極めながらその場で判断する力が求められるからだ。定年後も続けられる職業であることも、長期的なキャリアを考えるうえで大きな魅力となる。
実際にこの道を選んだ人たち
東京都大田区の電気工事会社に勤める田中さん(32歳、仮名)は、飲食業界から未経験で転職した。第二種電気工事士の資格を会社の取得支援制度を使って半年で取得し、現在は第一種を目指して勉強中だ。「前職では月収23万円が精一杯だった。いまは残業を含めて月35万円ほど。体力的にきつい日もあるが、手に職がついた実感がある」と話す。
一方、独立して一人親方として働く佐藤さん(45歳、仮名)は、高圧受電設備と太陽光発電の工事を専門にしている。独立9年目で、日当は35,000円から45,000円のレンジで安定している。「会社員時代の1.5倍は稼げるようになった。ただ、営業と経理を自分でやる負担は想像以上だった」と振り返る。
資格取得から就職までの具体的な流れ
第二種電気工事士の試験は年に2回、上期(学科4月~6月、技能7月)と下期(学科9月~11月、技能12月)で実施される。受験手数料はインターネット申込で9,300円程度だ。学科試験はCBT方式でも受験可能で、全国のテストセンターで随時受けられる。
試験対策としては、学科は過去問を中心にした独学で十分合格圏に入るという声が多い。一方、技能試験は実際に工具を使って練習する必要がある。ホーザンやマーベルなどのメーカーから出ている練習用キット(工具セット込みで15,000円~25,000円程度)を購入し、公表された候補問題をひととおり施工できるようにしておくのが王道だ。
就職活動では、資格の有無が最大のアピールポイントになる。第二種を取得していれば、未経験でも採用される可能性は十分にある。特に「資格取得支援制度あり」と明記している企業は、未経験者を育てる体制が整っている証拠だ。ハローワークの求人に加え、インディードやリクナビといった求人サイトでも電気工事士の案件は豊富に掲載されている。
第一種や電験三種を視野に入れるなら、まずは第二種で実務経験を積みながら、次の試験に備えるというステップが現実的だ。第一種の学科試験は年に1回(10月)、技能試験は12月に実施される。受験手数料は11,300円程度である。
独立開業を考えるなら
電気工事士として経験を積んだ先には、独立という選択肢もある。開業には「一般電気工事業」または「みなし電気工事業」の登録が都道府県ごとに必要で、登録手数料や申請書類の準備に数万円程度の初期費用がかかる。さらに、工具や測定器、車両への投資も必要になるため、独立時にはまとまった資金を用意しておきたい。
独立後の収入は、案件の獲得力に大きく左右される。元請けからの安定的な仕事を確保できるか、あるいは直接顧客を開拓できるかが鍵になる。多くの独立者は、会社員時代に築いた人脈を頼りにスタートし、徐々に紹介の輪を広げていくパターンが多い。
季節変動や景気変動の影響も無視できない。冬場は建設工事が減る傾向があり、収入が落ち込むこともある。労災保険や賠償責任保険への加入も、独立時に必ず確認しておきたいポイントだ。
電気工事士という仕事は、資格を取れば誰でもスタートラインに立てる。年齢も学歴も関係ない。そして、経験と資格を積み重ねるほどに収入も仕事の幅も広がっていく。太陽光、EV、蓄電池——これからの日本を支えるエネルギーインフラの最前線に立つ職業である。資格取得を考えているなら、まずは第二種電気工事士の試験日程をチェックするところから始めてみてはいかがだろうか。