日本では今、電気工事士の有効求人倍率が約3倍に達している。建設業界全体の高齢化と若手不足が叫ばれるなか、電気工事の分野は特に深刻だ。ベテラン技術者が引退する一方で、入職者が追いついていない。地域によっては「頼みたくても頼めない」状態が続いている。
背景には、電気工事の需要そのものが拡大している事情がある。再生可能エネルギーの普及に伴う太陽光発電設備の設置、電気自動車向け充電インフラの整備、工場やビルの省エネ改修——これらはいずれも電気工事士の手を必要とする分野だ。さらに、既存住宅のリフォームやスマートホーム化の波も加わり、仕事量は右肩上がりで推移している。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、電気工事士の平均年収は約550万円とされている。日本の給与所得者の平均年収が約460万円であることを考えると、かなり健闘している数字だ。ただし、これはあくまで平均値。資格の種類や働き方、地域によって年収には大きな幅がある。
資格の種類とそれぞれの世界
電気工事士には大きく分けて二つの資格がある。第二種電気工事士は一般住宅や小規模店舗など、600ボルト以下で受電する設備の工事を担当できる。いわゆる「街の電気屋さん」のイメージに近い。一方、第一種電気工事士はビルや工場、商業施設といった大規模設備の工事が可能で、扱える範囲が格段に広がる。
第二種の筆記試験合格率は60%前後、技能試験は70%前後で推移しており、国家資格の中では比較的取りやすい部類に入る。学歴や実務経験は問われず、中学生の合格者も毎年存在する。必要な勉強時間は100〜150時間が目安とされ、毎日1.5時間の学習を3ヶ月続ければ合格圏内に到達できる計算だ。第一種は筆記試験の合格率が35〜45%とやや狭き門になるが、第二種を取得してから挑戦するルートが効率的とされている。
もうひとつ、関連資格として知っておきたいのが電気主任技術者(電験)だ。発電所や変電所、大規模工場の電気設備を保安監督するための国家資格で、電気工事士とは役割が異なる。第三種、第二種、第一種の3段階があり、まずは第三種から挑戦するのが一般的だ。電験の資格を持つと、ビル管理会社や工場の電気主任として就職する道が開ける。
| 資格 | 主な業務範囲 | 試験手数料(2026年) | 筆記合格率 | こんな人におすすめ |
|---|
| 第二種電気工事士 | 一般住宅・小規模店舗の電気工事(600V以下) | 9,300円 | 約60% | 未経験から手に職をつけたい人 |
| 第一種電気工事士 | ビル・工場・商業施設の大規模工事(500kW未満) | 10,900円 | 約35〜45% | 収入の上限を上げたい中堅技術者 |
| 第三種電気主任技術者 | 工場・ビルの電気設備の保安監督 | 7,700円〜 | 約10〜15% | 設備管理の道を目指す人 |
働き方で変わる収入のリアル
電気工事士のキャリアは、大きく「会社員」と「一人親方」の二つのルートに分かれる。会社員として働く場合、月収は経験年数に応じて25万円から40万円程度が一般的で、ボーナスを含めた年収は400万円台から600万円台まで幅がある。都市部の大手ゼネコン系の電気工事会社であれば、さらに高い水準を狙える。
一方、一人親方として独立した場合の日当相場は2万円から4万円。経験を積み、専門性の高い工事をこなせるようになれば、日当4万円以上も現実的だ。特に太陽光発電や蓄電池の設置工事は単価が高く、日当3万円から4.2万円が相場となっている。高圧受電設備やキュービクル関連の工事では、日当3.8万円から5万円に達するケースもある。
ただし、独立にはリスクも伴う。仕事の受注は自分の営業力次第であり、繁忙期と閑散期の波を自分でコントロールしなければならない。道具や車両の維持費、保険料も自己負担だ。独立当初は年収300万円台にとどまることも珍しくなく、安定した収入を得られるようになるまでには数年かかると考えておいたほうが良い。
地域による単価差も無視できない。東京・神奈川・大阪などの都市部では日当2.8万円から4万円が相場だが、地方都市では2万円から2.8万円程度に下がる。同じ作業でも都市部と地方で1日あたり数千円から1万円近い差が生じるのが現実だ。
これから需要が伸びる分野
電気工事士の将来性を考えるうえで外せないのが、再生可能エネルギー関連の工事だ。太陽光発電システムの設置や蓄電池の導入は、補助金制度の後押しもあって需要が急増している。2026年現在、住宅用太陽光発電の設置件数は過去最高水準で推移しており、設置工事を担える技術者の不足が深刻化している。
電気自動車の充電設備工事も成長分野だ。マンションや商業施設へのEV充電器設置は、今後さらに加速すると見られている。これらの工事には第一種電気工事士の資格が必要になるケースが多く、資格取得が収入アップの鍵となる。
また、工場や倉庫の省エネ改修、照明のLED化、空調設備の更新といったリニューアル工事も安定した需要がある。一度建てた建物は定期的なメンテナンスが必要であり、電気設備の更新需要は景気に左右されにくいという特徴がある。
資格取得から就職までの流れ
第二種電気工事士の試験は年2回、上期と下期に分けて実施される。上期の筆記試験は例年4月から5月にかけて、下期は10月前後に行われる。申し込みはインターネットと郵送の2種類があり、インターネット申し込みのほうが締切が遅く手続きも簡単だ。
試験対策としては、過去問を繰り返し解く方法が最も効率的とされている。筆記試験は全50問の四肢択一式で、合格基準は60点以上。技能試験では事前に公表された13の候補問題から1問が出題され、制限時間40分で指定された配線作業を完成させる。工具は自分で用意する必要があり、ホーザンやマーベルといったメーカーの工具セットが受験者に人気だ。
就職先は多岐にわたる。電気工事会社はもちろん、ハウスメーカーやリフォーム会社の電気工事部門、ビルメンテナンス会社、工場の設備管理部門など、活躍の場は広い。求人サイトには「未経験歓迎」の案件も多く、資格取得後に実務経験を積みながらスキルを高めていく働き方が一般的だ。10代から60代以上まで幅広い年齢層が受験していることからも、この資格が年齢を問わずキャリアチェンジの手段として機能していることがわかる。
太陽光発電の設置工事や工場の電気設備工事を手がける会社では、第一種電気工事士の保有者を優遇する傾向が強い。都市部の大手企業では、月収35万円以上の求人も珍しくない。地方でも、地元密着型の電気工事店が安定した求人を出しており、Uターン就職の選択肢としても注目されている。
実際に動き出すためのステップ
まずは資料集めから始めるのが現実的だ。電気技術者試験センターの公式サイトで試験日程や申し込み方法を確認し、自分に合った受験スケジュールを立てる。通信講座や市販のテキストを活用すれば、独学でも十分合格を目指せる。ユーキャンなどの通信講座は、技能試験対策用の工具セット付きプランも用意しており、初めて工具を触る人でも取り組みやすい。
次に、自分がどのような働き方をしたいのかを明確にしておく。安定した収入を重視するなら会社員、自由度を求めるなら将来的な独立を見据えたキャリア設計が有効だ。いずれの場合も、まずは第二種電気工事士の資格を取得し、実務経験を積みながら第一種や電験にステップアップしていくルートが王道と言える。
地域の情報収集も欠かせない。たとえば関東圏では再生可能エネルギー関連の工事案件が豊富で、関西圏では工場の設備更新需要が根強い。地元の求人動向や工事単価の相場を把握しておけば、資格取得後のキャリア選択がスムーズになる。