日本人の旅行需要はコロナ禍を経て力強く回復し、2026年に入ってからも海外渡航者数は堅調に推移している。日本政府観光局(JNTO)の発表によれば、訪日外国人旅行者数も過去最高水準で推移しており、国内の旅行保険市場はかつてないほど多様化している。保険比較サイト「保険比較ライフィ」が2026年5月に発表した海外旅行保険のランキングでは、t@biho(たびほ)、たびとも、t@bihoプライムが上位を占めており、オンライン完結型の商品が支持を集めていることがわかる。
では、なぜ旅行保険はこれほど注目されているのか。背景には二つの現実がある。一つは医療費の高騰だ。海外で救急外来を受診した場合、観光客は現地の住民より割高な料金を請求されるケースが少なくない。米国や欧州では特に顕著で、簡単な処置でも数十万円に達することがある。もう一つは、自然災害や航空機トラブルによる旅程の混乱だ。台風シーズンの沖縄や九州、冬季の北海道では、フライトキャンセルが珍しくない。こうしたリスクに対し、クレジットカード付帯の保険だけでは補償額や範囲が不足するケースが増えている。
旅行先が国内であっても油断は禁物だ。国内旅行保険の需要も堅調で、特にアクティビティ型の旅行が増えたことで、ケガや賠償責任への備えとして加入する人が増えている。au損保の「国内旅行の保険」やエイチ・エス損保の「国内旅行総合保険」は、そうしたニーズに応える商品として知られている。
どんな旅行保険があるのか
旅行保険を大きく分けると、海外旅行保険、国内旅行保険、そして旅行キャンセル保険の三つに整理できる。それぞれ役割が異なるため、自分の旅行スタイルに合わせて選ぶ必要がある。
海外旅行保険は、渡航先でのケガや病気、盗難、フライト遅延などをカバーする総合的な保険だ。医療費補償は特に重要で、多くの専門家は治療費補償として最低でも1,000万円程度の確保を勧めている。近年はスマートフォンで加入手続きが完結する商品が主流で、出発直前でも申し込める手軽さが魅力だ。
国内旅行保険は、海外旅行保険に比べて保険料が安く、日帰り旅行から長期滞在まで幅広く対応する。宿泊施設での思わぬ事故や、レンタカーでのトラブルに備える層が中心だ。au損保の商品は、国内旅行傷害保険としてゴルフやスキーなどのアクティビティにも対応している。
キャンセル保険は、出発前に病気や身内の不幸で旅行を取りやめざるを得なくなった場合、キャンセル料を補償する。航空券やホテルの予約を早めに押さえる人ほど、この保険の価値は高まる。
以下に、主要な旅行保険のタイプと特徴をまとめた。
| 保険タイプ | 代表的な商品例 | 保険料の目安 | こんな人に | 主な補償内容 | 注意点 |
|---|
| 海外旅行保険(総合型) | t@biho(ジェイアイ傷害火災) | 7日間で2,000〜5,000円程度 | 海外渡航全般、家族旅行 | 医療費、賠償責任、携行品損害、救援者費用 | 渡航先や年齢で保険料が変動 |
| 海外旅行保険(シンプル型) | たびとも(エイチ・エス損保) | 7日間で1,500〜3,000円程度 | 短期旅行、学生、バックパッカー | 医療費、賠償責任(基本補償) | 携行品補償が別途必要な場合あり |
| 国内旅行保険 | 国内旅行の保険(au損保) | 1日あたり数百円〜 | 国内宿泊旅行、アクティビティ参加 | 傷害、賠償責任、救援者費用 | 海外では使えない |
| キャンセル保険 | t@bihoキャンセル(ジェイアイ) | 旅行代金の3〜5%程度 | 早期予約者、高額旅行 | キャンセル料、旅行中断費用 | 出発前の加入が必須 |
| 訪日外国人向け保険 | JNTO紹介の商業医療保険 | 滞在日数により変動 | 日本を訪れる外国人旅行者 | 医療費最大1,000万円、通訳サービス | 入国後でも加入可能 |
実際のトラブルから学ぶ、保険選びのポイント
「まさか自分が」と思っていた」
東京都在住の会社員、田中健太さん(35歳)は、家族で訪れた北海道のスキー場で転倒し、膝を負傷した。幸いにも海外旅行保険に加入していたため、現地の病院での診察費と、東京までの不本意な早期帰宅に伴う交通費の一部が補償された。田中さんは「保険料は7日間で3,000円ほど。治療費と交通費の合計が8万円を超えたので、入っておいて本当に良かった」と振り返る。
この事例が示すのは、アクティビティと補償範囲の一致という基本原則だ。スキーやスノーボード、ダイビングなど、ケガのリスクが高いアクティビティを予定しているなら、それらが補償対象に含まれているかを契約前に必ず確認する必要がある。保険商品によっては、危険度の高いスポーツを補償の対象外としている場合があるからだ。
「言葉が通じず、パニックになった」
大阪で一人旅をしていたオーストラリア人留学生のサラさんは、自転車との接触事故で肋骨を骨折した。日本語がほとんど話せず、治療の段取りもわからない。そんな彼女を救ったのが、加入していた訪日外国人向け商業医療保険に付帯する医療通訳サービスと医療機関紹介サービスだった。保険会社のオペレーターが英語で対応し、適切な病院を手配。治療費約75万円も保険でカバーされた。
JNTOによれば、訪日外国人が日本で高額な医療費を支払えずに帰国するケースが後を絶たず、そうした記録が残ると次回の入国審査に影響する可能性もあるという。訪日外国人向けの保険は、入国後でもオンラインで加入できる商品が登場しており、JNTOの公式サイトでも紹介されている。
「カード付帯保険だけでは足りなかった」
横浜市の鈴木美咲さん(42歳)は、クレジットカードに付帯する海外旅行保険を過信してタイへ渡航した。ところが滞在中に食中毒で入院。カード付帯保険の医療費補償上限は100万円だったが、実際の治療費と延泊費用で120万円を超えた。差額の約20万円は自己負担となった。この体験から鈴木さんは「カード付帯保険の補償額と条件を事前にしっかり確認すべきだった。今は必ず別途、海外旅行保険に加入している」と話す。
クレジットカード付帯の旅行保険は便利だが、補償額が限定的で、治療費の「補償上限」が想像以上に低いケースがある。また、カードの利用条件(旅行代金をそのカードで支払った場合のみ有効、など)が付いていることも多い。「付帯保険だけで大丈夫」と思わず、補償内容を確認する習慣が、思わぬ出費を防ぐ。
保険選びの実践的な手順
保険を選ぶとき、何から始めればいいのか迷う人は多い。以下の手順を参考に、自分に必要な補償を見極めてほしい。
行き先と目的を書き出す。 国内か海外か、滞在日数は何日か、どんなアクティビティを予定しているか。この三つを明確にするだけで、必要な保険のタイプはかなり絞られる。たとえば、北海道のスキー旅行なら「海外旅行保険+スキー補償あり」、沖縄のリゾート滞在なら「国内旅行保険+レンタカー事故補償」といった具合だ。
医療費補償を最優先で考える。 海外旅行保険で最も重視すべきは治療費補償だ。旅行先の医療費水準を調べ、それに見合った補償額を選ぶ。東南アジアなら比較的抑えめでも対応できるが、北米や欧州では高額な補償が求められる。国内旅行でも、自宅から離れた場所での入院や手術に備え、補償額を確認しておきたい。
複数商品を比較する。 オンラインの保険比較サイトを使えば、同じ条件で複数商品の保険料と補償内容を並べて確認できる。保険比較ライフィや保険市場などのサイトでは、ユーザーの口コミや評価も参考になる。ただし、最安値だけを追うのではなく、補償内容とのバランスを見ることが大切だ。
約款の細かい部分に目を通す。 面倒でも、免責事項や補償対象外の項目は必ず確認する。既往症の扱い、危険度の高いアクティビティの扱い、自然災害による旅程変更の扱いなどは、商品によって対応が分かれる。特に持病がある人は、その病気に関連する治療が補償対象になるかどうかを事前に確認しておく必要がある。
地域で異なるリスクと備え方
日本の旅行保険事情は、地域によってニーズが微妙に異なる。東京や大阪などの都市部では、海外渡航者向けの保険需要が圧倒的に多い。一方、北海道や長野、新潟などのスキーリゾートがある地域では、ウィンタースポーツ特化型の補償を求める声が強い。沖縄や九州では、台風シーズンに備えたフライトキャンセル補償への関心が高い。
保険会社もこうした地域特性を意識した商品設計を進めている。ジェイアイ傷害火災保険のt@bihoシリーズは、渡航先や目的に応じてプランを細かく分けており、スキーやスノーボードに対応したオプションも用意されている。エイチ・エス損保のたびともは、シンプルな補償構成と低価格で、短期のアジア旅行や学生旅行に人気がある。
地域密着型のサービスも見逃せない。一部の旅行代理店では、店頭で保険の相談ができる窓口を設けており、対面での説明を好む高齢者層に支持されている。オンライン加入が主流になるなかでも、こうした人的な接点は一定の価値を持ち続けている。
旅行保険は「入っておけばよかった」と後悔する人が後を絶たない商品の一つだ。幸い、今はスマートフォンひとつで比較・加入が完結する時代である。旅の計画を立てる段階で、保険の検討を旅程の一部として組み込む習慣をつけたい。数分の手続きが、旅先での数日間の不安を消し去る。出発のその前に、保険のタブを開いてみてはいかがだろうか。