旅行中のリスクと聞くと、多くの人は「飛行機の遅延」や「荷物の紛失」を思い浮かべるかもしれません。しかし実際に大きな負担となるのは、病気やケガにかかる医療費です。
日本政府観光局(JNTO)の案内によると、訪日外国人が自転車との衝突で外傷性気胸と肋骨骨折を負い、手術と19日間の入院、さらに付添医師を手配してアメリカへ帰国したケースでは、総額で約750万円の費用が発生しています。また急性心筋梗塞で手術と45日間の入院を経てシンガポールへ帰国した事例では、約1,000万円に達したとのことです。日本の公的医療保険は居住者向けの制度であり、訪日外国人や海外渡航中の日本人には適用されません。つまり全額自己負担になるのが原則です。
一方、海外へ出かける日本人にも同様のリスクがあります。アメリカで盲腸の手術を受け1週間入院すると、500万円から1,200万円程度かかることがあると業界関係者は指摘しています。東南アジアの感染症による10日間の入院でも50万円から200万円が相場とされており、「クレジットカード付帯保険だけで足りる」という考え方は、渡航先によっては大きな危うさをはらんでいます。
国内旅行でも注意すべき点はあります。たとえば登山中の滑落やスキー場での衝突事故、レンタカーでの自損事故などは、通常の健康保険で治療を受けられたとしても、救援費用や賠償責任が別途発生するため、自己負担が膨らみがちです。国内旅行保険は「たかが国内」と思われがちですが、救助ヘリの出動費用や第三者への損害賠償をカバーできる点で、加入を検討する価値があります。
3つの加入ルートとその特徴
旅行保険に加入する方法は主に3つあります。それぞれに向き不向きがあるため、自分の旅のスタイルに合わせて選ぶことが欠かせません。
クレジットカード付帯保険
年会費に含まれており、追加の出費なしで一定の補償を得られるのが最大の利点です。ただし注意したいのは「自動付帯」と「利用付帯」の違いです。自動付帯はカードを持っているだけで補償が有効になりますが、利用付帯は旅行代金をそのカードで支払った場合に限られます。近年は利用付帯のカードが増えているため、出発前に自分のカードがどちらに該当するか確認しておく必要があります。
また治療費の上限にも目を向けるべきです。一般カードでは200万円から300万円、ゴールドカードで300万円から500万円、プラチナカードで500万円から1億円程度が目安とされています。アメリカやヨーロッパなど医療費の高い地域では、一般カードやゴールドカードの補償額では心もとないのが実情です。
ネット保険(オンライン申込型)
保険料を抑えつつ、手厚い補償を得たい人に向いています。1週間の渡航であれば500円から2,500円程度で、治療費の補償上限が1,000万円から無制限のプランまで選べます。損保ジャパンの「off!」やエイチ・エス損保の「たびとも」、ジェイアイ傷害火災の「t@biho たびほ」などが代表的な商品です。
ネット保険の魅力は補償内容を細かくカスタマイズできる点にあります。たとえば「クレジットカード付帯保険で足りない治療費部分だけを上乗せする」といった使い方も可能です。申し込みは5分から10分程度で完了し、出発当日でも手続きできる商品が増えています。
空港カウンター保険
保険料は他の2つに比べて高めで、1週間で2,000円から5,000円程度が相場です。しかし「出発直前に保険に入り忘れたことに気づいた」という場合の最後の砦として機能します。補償内容は充実しており、治療費無制限のプランも用意されています。時間的な余裕がないときの選択肢として覚えておくとよいでしょう。
| 加入ルート | 保険料目安(1週間) | 治療費補償の上限 | 申込タイミング | こんな人におすすめ |
|---|
| クレジットカード付帯 | 年会費に含む | 200万~1億円(カード等級による) | 不要(自動付帯の場合) | 短期・先進国旅行、補償内容を事前確認済みの人 |
| ネット保険 | 500~2,500円 | 1,000万~無制限 | 出発当日まで可 | コストを抑えつつ手厚い補償を求める人 |
| 空港カウンター | 2,000~5,000円 | 1,000万~無制限 | 出発直前 | 申込忘れの救済、直前対応が必要な人 |
渡航先と旅のスタイルで変わる「必要な補償」
旅の目的や行き先によって、優先すべき補償内容は変わります。ここでは代表的なパターンを紹介します。
東南アジアのリゾート地へ1週間の休暇で出かける30代会社員のケースを考えてみましょう。この場合、重視したいのは感染症による入院と、アクティビティ中のケガへの備えです。治療費の補償が1,000万円程度あれば十分なケースが多く、ネット保険のベーシックプランで対応できるでしょう。加えてシュノーケリングや軽いトレッキングを予定しているなら、それらが補償対象に含まれているか事前に確認しておきたいところです。
一方、アメリカへの出張や留学で数週間から数ヶ月滞在する場合は話が変わります。医療費の水準が日本の数倍から十数倍に達するため、治療費の補償は無制限プランを選ぶに越したことはありません。長期滞在者向けのサブスクリプション型保険も選択肢に入ります。月額制で柔軟に契約できる商品が増えており、ノマドワーカーや長期旅行者の間で注目されています。
シニア層の海外旅行では、持病の急性増悪が補償対象になるかどうかが大きなポイントです。一般的な海外旅行保険では既往症は免責となることが多いため、持病のある人はその点をカバーする商品を選ぶか、別途特約を付ける必要があります。年齢制限にも注意が必要で、商品によっては70歳以上は加入できないケースや、保険料が割高になるケースがあります。
国内旅行では、賠償責任補償の有無が分かれ目になることがあります。たとえばレンタサイクルで他人にケガをさせてしまった場合や、宿泊先の設備を破損してしまった場合、個人賠償責任補償があれば心強いものです。日帰り旅行であれば500円程度から加入できる手軽なプランもあり、気軽に備えられます。
実用的な行動ガイド
旅行保険を選ぶ際、まずは自分がすでにどんな補償を持っているかを把握することから始めましょう。クレジットカードの付帯保険の内容は、カード会社のウェブサイトや会員向けページで確認できます。自動付帯か利用付帯か、治療費の上限はいくらか、補償期間は何日間か──この3点は必ずチェックしてください。
次に渡航先の医療費水準を調べます。アメリカやスイスなど医療費が特に高い国では、治療費無制限プランを軸に検討するのが安全です。アジア圏であれば1,000万円程度の補償で足りるケースが多いものの、長期滞在やアクティビティの種類によってはさらに手厚い補償が望ましい場合もあります。
保険商品を比較する際は、治療費や救援費用といった基本補償だけでなく、携行品損害や航空機遅延費用、個人賠償責任といった付帯補償にも目を配りましょう。日本のほけん比較サイトでは損保ジャパン、エイチ・エス損保、ジェイアイ傷害火災、au損保の4社を横断的に比較でき、渡航先と日数を入力するだけで保険料の目安が表示されます。
緊急時の連絡先も事前に控えておくと安心です。海外でトラブルに遭った場合、日本政府観光局の「Japan Visitor Hotline」(050-3816-2787)が24時間365日、英語・中国語・韓国語で対応しています。病気や災害時のサポートに加え、外国語対応が可能な医療機関の紹介も行っています。
最後に、保険に加入したら証券番号と緊急連絡先をスマートフォンに保存し、できれば紙でも携帯しておくことをおすすめします。旅先でスマートフォンのバッテリーが切れたり、通信環境が不安定になったりする場面は珍しくないからです。
保険は「入っておけばよかった」と後悔するよりも、「入っておいてよかった」と思えるかどうかがすべてです。旅の計画を立てる段階で、渡航先や滞在日数、自分の健康状態に合った補償を選ぶ習慣をつけておけば、万が一のときも慌てずに対処できるはずです。