相続税は、相続した財産すべてに課されるわけではありません。遺産の合計が一定額(基礎控除額)を下回れば、申告も納税も不要です。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。たとえば配偶者と子2人が相続人になる場合、法定相続人は3人なので4,800万円までが控除されます。
ただし、土地を保有している場合は要注意です。都市部で自宅を所有しているだけで、このラインを超えてしまうケースは少なくありません。また、基礎控除を下回っていても「小規模宅地等の特例」を適用する場合や、相続時精算課税を利用していた場合は申告書の提出自体が必要になります。相続財産の内容によっては、税金がかからないからと放置すると、思わぬ落とし穴にはまります。
申告期限は10か月、知っておきたい三つの落とし穴
相続税の申告と納税は、被相続人が亡くなった日(相続開始日)の翌日から10か月以内が期限です。この期限は延長できません。遺産分割協議がまとまっていなくても、法定相続分で仮計算した申告書を期限までに提出する必要があります。
まず、期限を過ぎると延滞税に加え、無申告加算税が課されます。自主的に申告すれば税率は抑えられますが、税務調査で指摘されてからの申告では加算額が重くなります。次に、相続開始前の贈与が相続財産に加算される「生前贈与加算」があります。令和6年から段階的に対象期間が延長され、将来的には相続開始前7年以内の贈与が加算の対象になります。これまで110万円以内の暦年贈与で対策していた方は、その前提が変わりつつある点に注意が必要です。
さらに、2026年度の税制改正では貸付用不動産の評価方法が見直されました。取得から5年以内の貸付用不動産は、これまでのような節税効果が期待できなくなっています。高額な節税効果を謳う商品を勧められた場合は、その背景にある税制の変化まで確認することをおすすめします。
申告までの流れと必要書類
申告までにやるべきことは、おおまかに次のとおりです。
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人の調査(戸籍謄本の取得)と財産の調査(預貯金、不動産、有価証券、借入金など)
- 遺産分割協議書の作成
- 財産評価(特に不動産は路線価や固定資産税評価額に基づく評価)
- 申告書の作成・提出と納税
必要書類には、戸籍謄本、住民票の除票、遺言書、遺産分割協議書、財産の残高証明書などがあります。預貯金の名義変更や不動産の相続登記まで含めると、10か月の間にこなす手続きは決して少なくありません。
専門家への依頼相場と選び方の目安
相続税申告を税理士に依頼した場合の報酬は、遺産総額や土地の数によって変わります。公開されている事務所の料金表を参考にすると、遺産総額が5,000万円~7,000万円程度で40万円前後、7,000万円~1億円で55万円前後、1億円~1億5,000万円で70万円前後といった水準が一つの目安です。土地の数が増えると1箇所ごとに加算されることが多く、相続人が複数の場合も報酬が加算される傾向があります。一方、申告書の作成のみをスポットで依頼する場合や、オンライン完結型のサービスでは、もう少し抑えられるケースもあります。
| 依頼内容の目安 | 報酬のイメージ | 向いている方 | メリット | 注意点 |
|---|
| 申告書作成のみ(スポット) | 比較的抑えめ | 財産構成がシンプルな方 | 費用を抑えられる | 遺産分割や調査対応は別途 |
| 相続税申告一式(税理士事務所) | 遺産総額に応じて変動 | 財産が複雑な方・安心を重視する方 | 節税提案や税務調査対応まで含む | 事務所によって報酬幅が大きい |
| 相続手続き全般サポート(弁護士・司法書士併用) | 別途見積もり | 遺産分割の調整が必要な方 | 争族リスクにも対応 | 複数専門家の連携が必要 |
| 税理士を選ぶときは、報酬だけでなく「相続税申告の実績」と「レスポンスの速さ」を確認するとよいでしょう。初回相談で相続財産の一覧を見せながら、どの特例が適用できるのかを具体的に説明してくれるかどうかが、事務所の力量を測る一つの目安になります。 | | | | |
地域の相談窓口と生前対策のポイント
各都道府県では相続に関する無料相談窓口や、中小企業向けの事業承継税制に関する手続き案内を行っています。事業を営んでいた方の相続では、非上場株式の納税猶予制度(事業承継税制)が利用できますが、事前の計画提出が必要です。相続発生後の駆け込み対応では間に合わないケースが多いため、生前のうちに専門家へ相談しておくことが重要です。
また、相続税の納税資金が不足する場合は、一定の条件を満たせば「延納制度」「物納制度」が利用できます。10か月という申告期限は動きませんが、納税方法そのものには選択肢があります。現金の一括納付が難しい場合でも、あきらめずに専門家へ相談してみてください。
相続税申告は、人生で何度もある手続きではありません。だからこそ、正しい情報をもとに、自分に合った進め方を選ぶことが大切です。まずは国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」で申告が必要かどうかを確認し、必要であれば地域の相談窓口や相続に強い税理士に一度話を聞いてみることをおすすめします。早めの行動が、余計な税負担を防ぐ第一歩になります。
参考情報:本稿の基礎控除額、申告期限、特例・改正事項は、国税庁および財務省の公表情報に基づいています。報酬額は公開されている税理士事務所の料金表を参考にした目安であり、個別の見積もりは各事務所へ直接ご確認ください。