「いざとなったら賃貸に引っ越せばいい」と考えている方は少なくない。しかし現実には、高齢になると一般の賃貸住宅への新規入居が難しくなるケースがある。大家や管理会社が懸念するのは、孤独死や室内事故のリスク、年金のみの収入では家賃滞納が起きないかという不安、緊急時の連絡先や身元保証人の確保が難しい点などだ。すべての物件で断られるわけではないが、選択肢が狭まることは知っておきたい。
内閣府の「高齢社会白書」によれば、約3割の高齢者が将来的な住み替えを希望しているという。住み替えを考える理由としては、家の老朽化やバリアフリー化の遅れ、庭の維持管理の負担、交通の便や周辺環境への不満などが挙げられている。つまり、多くのシニアが「今の家のままでは心もとない」と感じつつも、具体的にどう動けばよいかわからずにいるのが現状だ。
こうした状況を踏まえると、元気なうちにシニア向けの住まいの選択肢を知り、情報を集めておくことが何よりの備えになる。サービス付き高齢者向け住宅をはじめ、さまざまなタイプの住まいが各地で整備されており、早めに動くことで選択の幅は大きく広がる。
シニア向け住まいの主な選択肢
一口に「シニア向け住宅」といっても、その種類は多岐にわたる。ここでは代表的なタイプを整理する。
**サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)**は、バリアフリー設計や安否確認のためのスタッフ常駐など、高齢者の生活に配慮した賃貸住宅だ。介護が必要になった場合は、外部の訪問介護サービスを利用する形が一般的で、建物内に介護拠点が併設されている物件もある。入居一時金が不要なケースが多く、比較的入りやすい選択肢といえるだろう。
有料老人ホームは、食事や家事サポートなどのサービスが付いた施設で、自立した高齢者を対象とする「健康型」から、介護が必要な方向けの「介護付き」まで幅広い。入居一時金は施設によって大きく異なり、ゼロから数千万円超までと幅がある。月額の管理費や食費も含めると、毎月の支出はそれなりに大きくなることを見込んでおきたい。
**認知症対応型共同生活介護(グループホーム)**は、65歳以上で認知症と診断された方が、5〜9人程度のユニットで共同生活を送る施設だ。家庭的な環境のなかで、家事や身体ケアを分担しながら日常生活を送る。地域密着型のサービスとして、住み慣れた地域での暮らしを続けやすい点が特徴である。
シニア向け分譲マンションは、元気な高齢者の生活に配慮した設備やサービスを備えた分譲住宅だ。購入費として数千万円単位の初期費用がかかる一方、資産として残せる点が魅力となる。月額の管理費や修繕積立金、食費などを含めると、月々の支出は15万円から20万円程度が目安とされる。
以下に、各タイプの特徴を比較した表をまとめた。
| 住宅タイプ | 入居費用の目安 | 月額費用の目安 | 適している方 | 主なメリット | 注意点 |
|---|
| サービス付き高齢者向け住宅 | 敷金・礼金のみ(0〜数十万円) | 家賃+共益費で10〜20万円程度 | 自立〜軽度の介護が必要な方 | 入居一時金不要、バリアフリー完備 | 重度介護時は外部サービス利用が必要 |
| 有料老人ホーム(介護付き) | 0〜数千万円 | 20〜35万円程度 | 介護サービスを日常的に利用したい方 | 24時間体制の安心感、食事提供あり | 入居一時金の返還条件を要確認 |
| グループホーム | 数十万円程度 | 15〜25万円程度 | 認知症の診断がある65歳以上の方 | 家庭的な環境、地域密着型 | 対象者が限定される |
| シニア向け分譲マンション | 数千万円〜(購入費) | 管理費等15〜20万円程度 | 自立した生活ができ資産として残したい方 | 資産価値、自由な生活スタイル | 購入後の売却が難しい場合あり |
資金計画のリアルな考え方
老後の住まいを考えるうえで、避けて通れないのがお金の問題だ。2026年度の老齢基礎年金の満額は月額約7万円、夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な厚生年金の受給額は月額約23.7万円とされている。ただし、ここから所得税や住民税、介護保険料、医療保険料などが差し引かれるため、実際の手取りはさらに少なくなることを念頭に置く必要がある。
75歳以上の後期高齢者世帯に目を向けると、厚生年金受給者で月額14〜16万円程度、国民年金のみの受給者で月額5〜6万円程度というデータがある。夫婦で厚生年金と国民年金を合わせた場合、月々の年金収入は概ね20万円前後というのが実態に近い。この金額で住居費、食費、医療費、交際費などをやりくりするとなると、月額の住居費をどこまで抑えられるかが重要なポイントになる。
現役時代の貯蓄をどの程度取り崩すかについても、あらかじめ試算しておきたい。たとえば、85歳まで生きると仮定した場合、65歳からの20年間で必要な生活費の総額をざっくりと見積もり、年金収入との差額を貯蓄で補う計算になる。医療費の自己負担割合が1割から3割に変わることも、後期高齢者になると影響が大きい。こうした数字を踏まえたうえで、無理のない住まい選びをすることが肝心だ。
都心か郊外か、それぞれの選択
住み替えを考える際に悩ましいのが、都心と郊外のどちらを選ぶかという問題だ。シニア向け賃貸住宅 東京などの都心部では、徒歩圏内に医療機関や商業施設が揃い、車がなくても生活が完結する利便性の高さが魅力である。一方、家賃や物価は高めで、同じ予算でも得られる居住スペースは限られる。
郊外に目を向けると、自然環境に恵まれ、広々とした住まいを手頃な価格で確保しやすい。ただし、自家用車が手放せなくなった場合、将来の運転に不安を抱えることになる。公共交通機関の本数が少ない地域では、買い物や通院の足をどう確保するかが課題だ。最近では、駅前にシニア向けマンションを構える郊外型サ高住も増えており、両方の良さを取り入れた選択肢も登場している。
実際に住み替えを経験した70代の田中さん(仮名)は、都内の戸建てから郊外のサービス付き高齢者向け住宅に移った。「庭の手入れや階段の掃除から解放されて、本当に気が楽になりました。駅から徒歩5分なので、都心に出るのも苦になりません」と話す。一方、80代の佐藤さん(仮名)は「住み慣れた街を離れるのが嫌で、自宅をバリアフリーリフォームして住み続ける道を選びました」という。どちらが正解かは、その人の価値観や身体状況、家族構成によって変わる。
早めの行動が選択肢を広げる
住まい選びで後悔しないために、これからできることをいくつか挙げておきたい。
まず、地域包括支援センターを活用することだ。全国の市区町村に設置されているこの窓口では、保健師や社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職員が、介護や福祉、医療に関する相談に無料で応じてくれる。本人だけでなく家族からの相談も受け付けているため、親の住まいについて悩んでいる方も気軽に訪ねてみるといい。高齢者 住み替え 相談窓口として、まさに最初に足を運ぶべき場所だ。
次に、気になる施設があれば、必ず複数回足を運んでほしい。パンフレットやウェブサイトだけではわからない、職員の対応や入居者の表情、食堂の雰囲気といった「空気感」は、実際に訪れてみなければ感じ取れない。できれば時間帯を変えて訪問し、朝と夕方でスタッフの配置や雰囲気がどう変わるかも確認しておくと安心だ。
見学時には、契約内容の細部にも目を通す必要がある。特に有料老人ホームの入居一時金については、解約時の返還額と返還時期の条件を事前にしっかり確認しておきたい。退去後に想定外の負担が発生するケースもあるため、不明点は遠慮なく質問することだ。
最後に、老後 生活費 年金 目安を踏まえた資金計画を、できればファイナンシャルプランナーなどの専門家にも相談しながら立てておくと心強い。住まいにかけられる月額の上限をあらかじめ決めておけば、物件選びで迷うことが格段に減る。
おわりに
老後の住まいを考えることは、時に重たいテーマに感じられるかもしれない。しかし、早めに情報を集め、実際に施設を見て回るなかで、漠然とした不安は少しずつ具体的な選択肢に変わっていく。夫婦で話し合い、必要なら子どもにも同席してもらいながら、納得のいく住まいを見つけるプロセスそのものが、これからの人生をより豊かにする準備になるはずだ。まずはお住まいの地域の地域包括支援センターに連絡を入れてみることから、始めてみてはいかがだろうか。