相続税は、課税価格の合計額が基礎控除額を上回るときに申告義務が生じる。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、法定相続人が2人なら4,200万円、3人なら4,800万円が目安となる。住宅や預貯金、株式を合わせると、都市部では意外とこのラインを超えやすい。
見落としがちなのが、相続税額がゼロでも申告が必要になるケースだ。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使いたい場合、申告が特例適用の前提となる。自宅の敷地が評価減の対象になる小規模宅地等の特例は、申告をしなければ一切使えない。さらに死亡保険金は「みなし相続財産」として課税対象になり得るし、生前に暦年贈与した財産も一定期間は相続財産に加算される。預金が少ないから申告は不要と思い込むのは危険だ。
実際に相談現場で多いのは次のような悩みだ。10ヶ月という期限が思ったより短く、遺産分割が終わる前に申告の準備を迫られるケース。借金や貸付金、海外の預金といった財産の洗い出し漏れ。そして不動産の評価や特例の適用条件など、素人では判断しづらい専門的な領域。加えて、家族間の話し合いと税務手続きを同時に進める負担も重なる。
大阪に住む田中さん(62歳)は、父の遺産に自宅とアパート一棟があり、当初は自分で申告しようと考えていた。ところが小規模宅地等の特例の適用条件が分からず、地域の税理士に相談。特例を正しく使えたことで納税額を抑えられたという。こうした事例は少なくない。
申告までの流れと押さえておきたいポイント
相続税申告の手続きは、大きく四つの段階に分かれる。まず相続人を確定し、預貯金や不動産、有価証券、保険金など財産の全体像を洗い出す。次に各財産の評価額を算定し、基礎控除や各種特例を反映した課税価格を計算する。そのうえで申告書を作成し、被相続人の住所地を管轄する税務署へ提出する。納付も同じ期限までに行う必要がある。
必要書類としては、被相続人の戸籍謄本や住民票の除票、金融機関の残高証明書、不動産の固定資産評価証明書、遺言書や遺産分割協議書などが基本となる。相続税はe-Taxでの電子申告にも対応しており、スマートフォンからも手続きできる。
期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が上乗せされる。申告漏れの規模が大きい場合は刑事罰に及ぶケースもあるため、期日管理は徹底したい。遺産分割がまとまらないからと申告を先延ばしにすると、期限後の修正が煩雑になる。
自分で申告するか、専門家に任せるか
進め方は大きく三つに分かれる。財産の構成が単純で自信があるなら自分で申告する選択肢もある。一方で、不動産や事業承継が絡む場合は相続に強い税理士の支援が心強い。
| 進め方 | 費用の目安 | 向いている人 | メリット | 注意点 |
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| 自分で申告(e-Tax・申告ソフト) | ソフト代などの実費のみ | 財産構成が単純な人 | コストを抑えられる | 特例の適用漏れや書類不備のリスク |
| 税理士へスポット依頼 | 相続財産3,600万円以上で18万円〜が目安 | 期限に余裕がない人、財産が多い人 | 特例や評価の漏れを防げる | 依頼時期が遅いと報酬が割増になりやすい |
| 相続専門の税理士法人 | 財産規模により数十万円〜 | 不動産や事業承継がある人 | 遺産分割まで一貫して支援 | 費用が高めで事務所により差がある |
| 報酬は財産の規模や事務所によって差が大きい。依頼前に見積もりを複数取り、対応範囲を確認すると安心だ。税理士によっては初回の相談を低額で受け付けていることもあるので、問い合わせ時に費用体系を聞いておくとよい。 | | | | |
地域別の注意点と相談窓口
地域によって相続税申告の事情は異なる。東京23区や政令指定都市の都心部は土地の評価が高く、基礎控除を超えやすい。マンションの一室でも、路線価評価を考慮すると思った以上の課税になることがある。一方で地方では、相続した実家の空き家問題と税務手続きが重なるケースが多い。被相続人の居住用家屋を一定の要件を満たして売却する場合、譲渡所得の3,000万円特別控除を受けられる可能性があるため、処分を検討しているなら税理士に確認したい。
相談先は身近に点在している。管轄の税務署のほか、都道府県の税理士会が設ける相談窓口、地域の金融機関や信用金庫の相続相談窓口も頼りになる。地方銀行では相続手続きの担当者が常駐している店舗もあり、預金の名義変更から税務の相談まで一気に進められる。
2026年度の税制改正では、相続税や贈与税に関する制度の見直しも行われている。教育資金の一括贈与に係る非課税措置が3月末で終了するなど、生前贈与を考えている家庭は影響を受ける。制度の内容は年度ごとに変わるため、最新の情報は国税庁の公表資料や税理士の解説で確認してほしい。
まずは財産の一覧から始めよう
最初にやるべきことは、財産の一覧を書き出してみることだ。預貯金の残高証明書を取り寄せ、登記簿や保険証券を集めるだけでも状況は見えてくる。基礎控除との差が小さいケースほど、専門家の見解を早めに聞く価値がある。10ヶ月は長く感じても、遺産分割や不動産評価の作業を考えるとあっという間だ。期限ぎりぎりになると選択肢が狭まる。迷ったら管轄の税理士に相談し、申告期限内に確実な手続きを進めてほしい。