相続税はすべての相続で発生するわけではありません。遺産に係る基礎控除額を超えた場合のみ、申告と納税の義務が生じます。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。配偶者と子ども2人が相続人なら法定相続人は3人となり、基礎控除は4,800万円。これを超える財産があれば申告が必要です。
ここで注意したいのが、税額がゼロでも申告書の提出が必須になるケースです。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用する場合、納税額がゼロでも特例の適用を受けるには申告書の提出が条件になります。「納税額がゼロだから申告不要」と誤解して放置すると、本来受けられたはずの軽減を受けられず、想定外の税金を負担することになりかねません。
申告が必要かどうかは国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」でシミュレーションできます。財産の目安と法定相続人の数が分かれば手軽に確認できるので、まずここから始めるのがおすすめです。
申告期限と遅れた場合のペナルティ
申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内です。たとえば2026年1月に相続の発生を知った場合、期限は同年11月となります。期限日が土日祝日の場合、翌営業日が期限です。
10ヶ月は一見長く感じますが、財産調査・評価、遺産分割協議、申告書の作成をすべてこなすには十分な期間ではありません。不動産が多いケースや相続人間で意見がまとまらないケースでは、準備に想定以上の時間がかかります。早めの着手が何より重要です。
期限を過ぎると無申告加算税(納付税額の5%〜30%、悪質な場合は40%)や延滞税が課されます。財産規模が大きいほどペナルティも高額になるため、期限内の申告・納税は必須と心得てください。万一間に合わない見込みの場合は、迷わず早めに専門家へ相談しましょう。
自分で申告できるケースと専門家に任せるべきケース
相続税申告は自分で行うことも可能です。財産構成がシンプルで、評価が明確なケースなら国税庁の記載例を参考に自力で完結できます。目安として次の条件に当てはまる場合、自己申告が現実的といえます。
- 財産総額が基礎控除を大きく超えていない(目安として5,000万円程度まで)
- 財産の大半が預貯金や上場株式など評価方法が明確な金融資産
- 不動産がない、または自宅1軒のみで評価が単純
- 相続人間で遺産分割の争いがない
- 生前贈与の加算や名義預金などの複雑な要素がない
一方で、不動産評価は特に難しく、自己判断では申告漏れや評価ミスのリスクがあります。財産総額が基礎控除ぎりぎりのケースや、評価方法に不安がある場合は税理士に相談して確認するのが安心です。専門家の助言は節税機会の見逃し防止にもつながります。
必要書類は大きく3つに分類できる
申告に必要な書類は多いですが、整理のコツがあります。大きく3つのカテゴリーに分けて考えると、漏れなく準備できます。
①全員共通で必要な書類
被相続人の出生から死亡までの除籍謄本(戸籍謄本)、住民票の除票、戸籍の附票、相続人全員の戸籍謄本と住民票などが該当します。除籍謄本の取得には1〜2週間程度かかり、遡るほど時間がかかるため、申告準備の中で最優先に着手すべき書類です。現在は戸籍証明書の広域交付制度により、最寄りの市役所窓口で一括請求が可能です。
②財産の種類別に必要な書類
預貯金なら残高証明書、上場株式なら残高証明書と取引報告書、不動産なら固定資産税評価証明書や登記事項証明書、借入金なら残高証明書などが該当します。借入金や未払い費用、葬式費用の領収書は債務控除の対象になるため、必ず保管しておきましょう。
③控除・特例の適用に必要な書類
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例、未成年者控除などを使う場合にのみ必要な書類です。特例ごとに添付書類が異なるため、適用したい制度を先に決めておくと準備がスムーズに進みます。
税理士に依頼する場合の費用感と選び方
税理士に申告を依頼した場合、報酬の相場は遺産総額の0.5%〜1%程度(遺産が1億円なら50万〜100万円程度)といわれています。報酬は「基本報酬+加算報酬」の構成で、土地の数が多い、非上場株式がある、相続人が多い、期限まで期間がないなどの要素があると加算されます。
報酬の安さだけでなく、相続税の専門性や申告実績、担当者の資質を総合的に判断して選ぶことが大切です。見積もりを複数の事務所から取り、報酬の総額で比較するのが失敗しないコツです。特に不動産が多いケースや複雑な財産構成では、専門性の高い事務所を選ぶと長期的な安心につながります。
相続税申告の流れとステップ
相続税申告はおおむね次のような流れで進みます。
- 相続人と財産の把握:戸籍を取得して法定相続人を確定し、預貯金・不動産・株式などの財産を洗い出す
- 財産評価の実施:不動産は路線価方式、株式は相続税評価額など、財産ごとに評価方法が異なる
- 遺産分割協議:相続人全員の合意を得て遺産分割協議書を作成
- 申告書の作成:基礎控除や特例を考慮して課税遺産総額と税額を計算
- 申告と納税:所轄税務署へ申告書を提出し、期限内に納税
専門家に相談する際のポイント
「相続が起きてから慌てる」のではなく、生前から情報を集めておくのが理想です。相続税の申告は、やるべきことが多く期限も限られています。まずは国税庁のシミュレーションや市区町村の相談窓口を活用して申告要否を確認し、必要に応じて税理士の初回相談を活用しましょう。多くの事務所が初回相談を設けており、財産構成に応じたアドバイスを受けることができます。
相続税申告は難しく見えますが、基本ルールを押さえれば段取りよく進められます。財産が基礎控除を超えるかどうか、特例を適用するかどうか、まずはこの2点を確認することから始めてください。